
私が子どもの頃は社会全体が戦後の荒廃から立ち直り、自らの生活そのも
のをどう維持し、向上させていくかということが最も切実な問題という状況で
した。大人は子どもたちを食べさせることに懸命で子どもたちに細々とかまう
ことはできなかったけれど、子どもたちはそういう大人の姿を見て生活の大変
さを身をもって感じ、自立することの大切さや、家庭や地域での役割を果た
すことの責任や喜びを日常の直接的な体験を通して、自然に身につけてきた
ように思われます。手にする情報と言えば、テレビが普及し始めてはいたもの
の、ほぼ学校教育や地域の子ども同士の人間関係の中で得るものがすべてと言って良いほどで、
日常生活の中での実際の具体的な体験を通して夢や思いを膨らませ形成してきました。言わばリ
アルな体験の中で自らの夢や思いを実現しようとするエネルギーが蓄積されてきたように思います。
それから時代は随分変わりました。今子どもたちは生まれたときからゲーム機やパソコン、スマー
トフォンなどに囲まれ、実体験を伴わない圧倒的な情報量の中で日常生活を送っています。大量
のヴァーチャルな情報に埋もれ、実体験の基盤がないため、地に足の着いた視点をもって、生き
る方向を見つけにくく、将来の夢や思いを育み、その実現を図ろうというエネルギーを着実に蓄積
することが難しくなっているように思われます。
こうした状況の中ではヴァーチャルではなく、やはりリアルな体験を通して、子どもたちが広く世
界に目を向け、自らの現在の立ち位置を認識し、これからの自らの生き方・在り方を考える拠り所
となる機会を提供することが大切であると考えます。
子どもたちは、一人一人素晴らしい感性や理解力・判断力を持っています。私たちは、子どもた
ちに適切な機会を提供することにより、それを引き出し、それぞれの個性を伸ばしていきたいと
考え、海外文化体験事業とイングリッシュキャンプを二つの柱に活動しています。これからも一人で
も多くの子どもたちが私たちの活動に参加し、自らの可能性を伸ばしていってくれることを心から
願っています。
最後になりましたが、こうした活動が出来るのは、青少年の健全育成にご賛同いただく県内の
企業様のご協力、ご支援によることが大きく衷心より感謝申し上げます。
奈良県国際交流振興会理事長 松 井 秀 史